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介護と褥瘡(床ずれ)について
褥瘡とはなんでしょうか?
褥瘡とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。一般的に「床ずれ」ともいわれています。
日本褥瘡学会「褥瘡について」
褥瘡を主に診療するのは皮膚科、形成外科が担当することが多いです。病院では褥瘡対策チームが中心となって病棟に入院されている患者さんの褥瘡の予防や治療を行っています。その中でも褥瘡ができやすい(リスクのある)患者さんの予防をしっかり行い、褥瘡を作らない、という対策がとても重要です。
褥瘡を診療するのは病院だけでなく、クリニックの皮膚科でも担当しますし、施設への往診は多くはクリニックの皮膚科の医師が担当していることがあります。
褥瘡ができる時は、多くの場合はそのご本人の身体の寝たきり状態や栄養の状況が良くないことを示します。
褥瘡ができたから身体の状態が悪い、入院させてほしい
という誤った要請を施設から受けることは良くありますが、これは間違っています。正しくは、
全身の状態が悪いから褥瘡ができた
と考えるべきです。なぜ患者さんの状態が悪くなったのか、その原因が改善できるものなのか、それとも老衰など避けられないものなのか、それを見極めて患者さんの状態に合った対応を考えることが重要ですし、そのためにはまず、患者さんの状態が悪化したことについて、ご家族が施設、主治医と話し合っていただくことが必須になります。
しかしながら、褥瘡で受診された患者さんがお看取りの方針なのか、回復の見込みがある場合に積極的な治療を行うのか話し合って来られていることはほぼ皆無であるのが原状です。施設に入所する際に急変時の救命措置はしないこと(これを一般にDNAR:Do Not Attempt Resuscitateといいます)については同意されていても、いよいよ褥瘡ができるぐらいお体の状態が悪くなったが今後どうしましょう、という相談を受診前にまずしていただきたいと思います。
ごはんが食べられないから入院させてほしい
と言われることもありますが、褥瘡が改善したからと言ってごはんが食べられるようになるわけではありません。病院は介護の場ではなく治療の場ですので、多くの場合かえって寝たきりの状態は進行したり、環境が変わることで病状が急変することもあります。
まとめると褥瘡は原因ではなく結果です。身体状況が悪いから出来るのであって、その逆ではありません。
一方、「介護施設だから褥瘡はみられない」と言われることがあります。確かに重度の褥瘡が出来てしまった場合は専門科での診察が必要となるでしょう。しかしこれを、介護者としての義務を放棄する言い訳に使われることがあります。
介護施設は介護保険法に基づき、利用者の健康と安全を維持する義務があります。褥瘡は「完全に予防可能ではない」ため、「施設だから褥瘡は見られない」という主張自体が現実的ではなく、むしろ発生した場合の早期対応や予防策の徹底が求められます。
褥瘡予防は施設の基本的な役割の一部であり、発生が防止できなかった場合、施設のケアが不十分だったとみなされる可能性があります。
褥瘡で裁判は可能か裁判例から解説
単純に「褥瘡の処置が出来ない」ということであればそれは急性期病院に依頼することではありません。急性期病院の役割を理解せずにお願いして断られても仕方ありません。褥瘡の処置に対応している施設を主治医と協力して探していただくか、療養型病床への転院(いわゆる老人病院と言われるところ)を検討するのが合理的です。
急性期病院でお引き受けできるのは褥瘡の評価・処置(入院なし)、重度の感染や緊急手術が必要な場合、全身の状態が落ち着いていて専門的な処置(陰圧閉鎖療法、外科的再建手術など)が必要な場合のみです。
介護報酬では褥瘡マネジメント加算が設定されています。
褥瘡マネジメント加算とは、褥瘡の発生を予防するために、対策を行っている施設が算定できる加算
となります。対象となる施設で所定の対策を整えた場合に、毎月所定の加算を取ることができる、というものです。
褥瘡マネジメント加算とは?対象・算定要件やLIFEへの提出情報などを解説
最後に繰り返しにはなりますが褥瘡は原因ではなく結果です。身体状況が悪くなってきたから出来るのであって、その逆ではありません。
褥瘡は予防が大事です。それは病院でも介護施設でも同じであって出来ないでは済まされません。
褥瘡ができた時は必ず、何らかの原因があります。その原因に向き合わずして解決することは出来ません。一時的に入院ができたとしても、その原因を解決しない限り元の環境にもどれば同じことを繰り返すことになります。褥瘡の原因が老衰、病気など避けられないものであった場合、中途半端な対応はかえってご本人の苦痛を増やすことにもつながります。
ご家族にとっては、褥瘡ができるぐらい状態が悪化していることが理解できていないと褥瘡の治療だけを気にしたり、場合によっては褥瘡ができたことに対する責任問題となる可能性があります。きちんと情報交換をして患者さんの状態を理解してもらってください。
この文章を目にしたり、渡されたりした場合にはぜひ一度お読みいただきそのことをよく考えていただければ幸いです。