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【マツコの知らない世界】サリチル酸ワセリンを保湿剤として使うという放送について

ただいま緊急でブログを回しております。
2024年3月19日TBS「マツコの知らない世界」で放送された、
「サリチル酸ワセリンを保湿剤として使うことをおすすめする」
「サリチル酸ワセリンとステロイドを混合して処方する」
「お医者さんに頼めばそういう用途で処方してもらえる」
という内容について、視聴されたみなさまの誤解を招く可能性があるため情報提供させていただきます。(画像の下に続きます)

引用元:https://www.tbs.co.jp/matsuko-sekai/archive/202403191/

サリチル酸はもともと、消炎鎮痛薬として開発されましたが、そのまま服用すると胃腸への副作用が大きくなるため、アセチル化した「アスピリン」が使用されることになった歴史的経緯があります。

しかし、サリチル酸には皮膚の角質を柔らかくする作用があるため、足の裏のような硬い皮膚に塗って柔らかくしたり、高濃度の製剤はいぼや魚の目に貼り付けて真っ白に腐食させる、といった使われ方をすることは現在でもあります。
ワセリン(プロペトという商品名のものもあります)は保湿剤として使われることが多いですが、サリチル酸ワセリンはこのような作用があるサリチル酸が混合されていますので、ワセリンとは全く別の作用及び使い方になるとお考えください。

当院でも治りにくいイボの患者さんにスピール膏を貼っていただいたり、手、足の硬い皮膚に塗っていただくためにサリチル酸ワセリンを処方することはあります。また近年では、ケミカルピーリングという治療法で顔の美肌の治療にサリチル酸マクロゴールを使うこともありますが、サリチル酸という名前の通り酸性の物質ですので、敏感な皮膚にはピリピリと刺激を与えることが多いです。
スピール膏:濃度50%
サリチル酸ワセリン:濃度5または10%
サリチル酸マクロゴール:濃度30%

そのようなお薬ですので、使い方を間違えなければ有用なのですが番組で放映されたように手、足以外の全身の保湿剤として使うには5-10%という濃度は高すぎますし、角質が柔らかく剥がれやすくなって薄くなりますので逆効果とも言えます。またステロイドと混合して使う、となるとステロイドを長く塗ることになるため保湿剤としては不適切ということになります。まためったにないこととは予想されますが、全身に大量に長い期間塗ったりすると、皮膚から吸収されたサリチル酸が体内に入り「サリチル酸を服用したときのような」全身の副作用が起こらないとも限りません。専門知識のある皮膚科医にとってはとても違和感のある説明であり、一般の方々に対しては誤解を招く内容であると感じられました。

と、なりますと私たち皮膚科の懸念としては、番組で報道された内容を鵜呑みにした視聴者の方々が皮膚科を受診され適切とは言えないにも関わらず「サリチル酸ワセリンを保湿剤として処方して欲しい」「サリチル酸ワセリンとステロイドを混合して処方して欲しい」と要求される患者さんが増加してしまう、という現場での混乱を招きかねない、という点になります。
私たち現場の皮膚科医が適切、と判断したときは処方されることもあるでしょう。しかし今回の場合、多くは不適切と判断される可能性が高いと考えております。

幸い、明日3月20日は祝日で多くの皮膚科は休診であることでしょう。当院も祝日、そして翌21日木曜日も休診日ですので22日までは猶予がありますが、次に皮膚科が開いている日にこのような患者さんが増えないことを、そして私たち臨床経験のある皮膚科医の声に耳を傾けていただけることを願っております。

 

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